加藤(※以下 加)鎌田さんお久しぶりです。お会いするのは地域おこし協力隊(※以下 協力隊)の初任者研修以来ですね。
今回は、温泉ソムリエでもある鎌田さんのお話を聞かせてください。
昨年は東奥日報で岩木の湯っこ「新湯治宣言。」で5回に亘って連載していましたね。
鎌田(※以下 鎌)岩木山観光協会の企画で、湯治をテーマに書きました。
加)湯治って青森にもある文化なのに、薄くなってしまったような感じがします。
黒石には客舎ってありますよね。客舎っていう言葉自体もう独特で、何かあるぞって雰囲気を感じます。
鎌)客舎という名前が残っているのは、現在は黒石と大鰐くらいかと思います。
加)大鰐にもあるんですね。
鎌)明治の頃を中心に湯治用の宿泊施設として津軽にたくさんあったようですけど、その後なくなっていきました。
昭和の特にバブル期で観光の方に極端に傾いて。それまでは湯治の人の方が多かったけど、観光の温泉へシフトして、今更湯治をっていうのはほとんどやってないんですけど、湯治をやりたい人は結構いるんですよね。体験してみたいという需要はあります。湯治の文化を残している別府や秋田の玉川温泉は、今でも湯治での宿泊が可能です。あえて意識的に残している宿じゃないと、なくなっているのが現状です。
それこそ湯治が一番盛んだったときは温泉地にしか温泉がなかったので、弘前の人は嶽に、平川の人は大鰐へ、農閑期に1年の疲れを癒しに滞在していました。今はまちなかにも浴場が増えて、温泉に行く欲求は日帰りで達せられるようになったので、そういう機会は減っているというのはありそうです。
加)鎌田さんってどのぐらいのスパンで温泉に行っていますか。多いときはどうでしたか。
鎌)多いときは毎日は当たり前として、朝と夜みたいな、連チャンみたいなときも。若干のめり込んでいましたね。ここまできたんだから入らなきゃとか。
今は生活を重視して、温泉に入ったということを目的にしないよう、純粋に効果を感じるために入浴しています。
今日、この場に遅れてきたので申し上げにくいんですけど、来る途中で温泉入ってきて。
昨晩帰ってそのまま寝ちゃったので、早起きして風呂寄りながら行こうと思ってたんですけど、間に合いませんでした。すみません(笑)
加)温泉ソムリエらしい理由でいいですね(笑)。ちなみにどちらへ。
鎌)空港通りに行く道中にある、浪岡の「和の湯」です。新しく大きめのところで、どちらかというとスーパー銭湯に近いです。お湯は消毒ありで、塩素臭は気になるほどではないですが少しあります。元々黒湯で、茶色いお湯なので、そっちのいい匂いの方が強いです。全部の浴槽が温泉なのが気に入っていて、割とよく行くところです。
加)青森県に多い泉質ってありますか。
鎌)温泉の泉質名は、平成26年に改定されて以来10種類に分類されますが、各浴場や宿によってはまだ古い方の泉質名を掲示しているところもあります。
その分類の仕方に照らし合わせると、青森県にある温泉の泉質は7種類ぐらいになると思います。
場所によって泉質が固まっているところがあって、青森市のまちなかだと透明な単純温泉や塩分を含む塩化物泉が多い。浅虫も透明ですが、また違う泉質の硫酸塩泉です。
山に行けば行くほどちょっと鉄分が入ってくるとか、硫黄が入ってくるっていう感じで、酸ヶ湯のようないい温泉や、鉄泉も出てるので、青森市だけでも面白いですよね。
加)なるほど。海へ行けば塩が。山に行くと鉄や硫黄が入ってくるっていう。
鎌)そうなんですよ。なんか、地質もやっぱりもっと勉強しないといけないなって。
結局これってどうしてなんですかって聞かれると、第四紀の火山活動がどうとかっていう話になるんですけど、それを全部説明するってなると勉強しないといけないので、興味が尽きないという感じです。
加)温泉ソムリエはなぜ取得しようと思ったのでしょうか。
鎌)青森に帰ってきて、協力隊になってから取りました。
それまでは趣味というか友達と行ってるぐらいだったんですけど、2017年の10月に岩木の協力隊に着任し、さぁどういった活動をしようかという時に、自治体からの活動テーマは自由で、観光協会からは温泉地の特徴を活かした温泉をテーマにしした活動もして欲しいなという感じだったので、専門的な資格として、「温泉ソムリエ」と「温泉入浴指導員」を取得しました。
以来少しずつ雑誌の執筆依頼などが岩木から始まって、ちょっと書けますかとか話できますかというのが増えてきました。
加)赴任先の環境に寄り添った結果の取得だったのですね。
鎌)僕は浪岡生まれで高校までが地元で、大学から仙台へ出たんですけど、当時は青森県に温泉がいっぱいある事を知りませんでした。浪岡の黒湯がマニアの間で有名だということも。
大学時代に、鳴子温泉や蔵王で温泉っていいなぁ〜と目覚めた感じです。
そして振り返ってみると、青森にも温泉がいっぱいあるじゃないかって事がわかってきて、しかも鳴子や草津とは異なる雰囲気で、銭湯だけでもないし、共同浴場とかも含めて温泉はいっぱいあるなぁっていうことで、知りたいというか湧いてきたというか。
加)色々な地域で協力隊を募集している中で、特に岩木の温泉に惹かれたのでしょうか。
鎌)要素の一つではあったっていう感じですけど、でもそうかもしれないですね。
選考を受ける前に、友達にただ青森に遊びに行きたくなったと岩木へ遊びに行って百沢温泉に入ったんですけど、個人的には岩木の様子を見たいと思っていて。
そしたら百沢温泉がすごい良くて。若干濁りがあり、鉄分、マグネシウムも入っているので、結構エグい味がするんですけど、地面から湧いてるんだなっていうミネラル感みたいなのを感じてハマったんです。すごい温泉だなって思って。こういう温泉があるんだったらいいかもしれないって思って、実際に来たっていう感じです。
ちなみに、百沢温泉には思い入れがあるので、毎年大晦日に入るようにしてます。
加)温泉界の実家ですね。
なんとなく導かれるままに来て、少しずつ取材・編集の依頼で趣味じゃなく専門性が強くなってきたっていうのは、自然体で面白い道ですね。
あれも何かの兆しだったのかなぁと振り返ってみると道ができてたみたいな感じで。
加)今、気になっているテーマはありますか。
鎌)最近は朝風呂や銭湯についても注目しています。
青森は津軽も南部も、朝5時や6時に営業開始している温泉が多いのも特徴的です。八戸の銭湯なども。
加)鎌田さんは温泉だけだと思ってたんですけど、銭湯も含まれてるんですね。
私も銭湯が好きで、電車旅で京都や東京へ行った時には、意識的に立ち寄っています。挨拶を交わすアットホームなところもいいなあって。
鎌)東京にいたときは墨田区の方に住んでたんですけど、僕もよく銭湯をまわってました。
温泉ソムリエで習うのは、温泉の泉質や成分表の読み方、入浴方法がメインなので、そこだけを純粋に追い求めると温泉の方に行くんですけど、僕は生活や地質などの文化や背景を掘り下げていくのも面白いなと思って。
温泉のことを調べると、総合学習みたいで、学校の授業になるんじゃないかって思います。中学校や高校で習った知識って必要だったんだなっていうのを実感してます。陽イオン陰イオンという成分表や泉質名を作ったり。理科、日本史、地理も結びついています。
加)そういう教科に例えるって面白いですね、教科書に載ってない文化というのがまた面白いです。生活が、やがて歴史になるっていうか。
朝風呂も、誰かが言わないと形にならないので。
私も朝風呂入った日は調子がいいので、5時からやっている近所の温泉にたまに行くんですけど、朝風呂の効能を頭でも知れたらいいな。
鎌)そうなんですよ。
弘前市内の温泉に朝風呂に行くと、出勤前にさっと入って風呂から上がった後スーツも髪もビシッと整えていく人をたまに見ます。
青森の温泉の書籍なんかを読むと、昔は開店時間がもっと遅かったけど、早朝に開店前から並ぶ人が多いから、もっと早めざるをえなかったという話が結構あって。浴場側の戦略的な仕掛けというよりは自然発生的な感じです。
でもそうなると営業時間が長くなり、5、6時〜22時になってしまうので、終わってから清掃すると勤務自体は24時までになって、朝4時からはもう準備してるって感じになるので、浴場の人たちってすごいなって思います。
加)知れば知るほど、浴場に関わる人の事も気になりますね。
鎌)よく聞きますよ。営業時間が長く設備もポンプなどでお金がかかるので、しんどいところが多くて、基本的には減っていく。
昨年だけでも有名なところでも閉めたりしてます。
あとは昭和から平成にかけて全国的に人口が増加傾向だったときだったので、どんどん掘ってどんどん浴場を建てていった感じだったんですけど、人口減少の現状に照らし合わせると、ある意味では自然な事でもあります。けれどやっぱり寂しいのは寂しいです。
自分は青森の温泉に入るようになって5年くらいなので知らないことだらけですが、20〜30年地元で入っている人は、昔は温泉選びたい放題だった。昔が100だとしたら今は60~70ぐらいの充実度かな〜っていうので。
本でしか見たことのない温泉がいっぱいあるので、入浴してみたかったという気持ちはありますが、今のうちに入って記録に残しておくべきだな、書いておくっていうのは大事だなって思っています。
加)今残ってるものを見ることができるのは、残してくれた人がいるからですよね。
形があるだけでも、実はすごく貴重だったり。言語化するっていうのが、大事ですよね。
お風呂に入りたいっていうのは生理現象に近い欲望じゃないですか。
入ってさっぱりしてしまえば特に言語化することもなく当たり前に過ぎていく感じで。
改めて振り返ってみると、弘前で聞き取りして、話題を投げかけてみたらそういえばみたいな、地域おこしってそういうの結構ありますよね。話してみると、地域の興味深い話が現れてくるんだなって。
昨年著作された岩木山温泉手帖は、そういった文化や背景を1冊にまとめていますね。
手に取りやすいサイズと、モノクロの素朴な文集のような雰囲気が想像を掻き立てる感じで、ノスタルジックな温泉との相性バッチリな装丁も素敵です。
鎌)これは協力隊3年間の人脈をフルに使わせてもらって、今までずっとただ温泉に入りに来てる協力隊みたいだったんですけど、岩木山温泉手帖を出せたことで温泉ソムリエのことを知らない人たちや、自分の名刺がわりとしても知ってもらえるようになりました。
これからも長く青森の温泉について研究して、いつの日か青森の温泉に関するものをまた書きたいと思っています。
岩木山温泉手帖については岩木の温泉旅館や飲食店に設置しているんですけど、増刷するかは今のところわからないので、お店に置いてくれたり資料として興味ある方には、FacebookかTwitterで僕に直接連絡をもらえればと思います。
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加)ありがとうございます。多彩なお風呂の話、とても興味深かったです。
今後の温泉ネタも楽しみにしていますね。