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美容室と古物とビリヤニと。好きなものがリンクしていく地球屋。

美容室と古物とビリヤニと。
好きなものがリンクしていく地球屋。

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Takahiro Tamura

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Miyuki Kato

とにかく楽しいからつくっちゃう。
手間暇かけたいビリヤニづくり。

田)今日はベーシックなチキンビリヤニをつくります。なんとなくそれが食いたくて作る。
専用のこの鍋が本当によく出来てて、丸い鍋底がぶ厚くなっていたり。

加)日本にはまずないこの形に機能美があるんだろうね〜、壺みたい。
昔から料理好きだよね。しかも郷土料理じゃなくて異国の。

田)そう、異国の料理好き。

輸入雑貨店より取り寄せた、ビリヤニ専用の鍋。

加)いつから料理好きに。

田)22才くらいの時に、一人暮らしをはじめたものの圧倒的にお金がなくて、冬場に布団とつかないテレビしかない。つまり部屋に何もないっていう。1ヶ月水と半額の8枚切りパンだけで過ごしたことがあって、給料が入るごとに家電を買うわけ。そしてまずは炊飯器でしょ、次の月はガスコンロっていう、とんでもない苦学生みたいな。
ちょっとずつ毎月家電を買って、料理ができるようになって。ごはん作れるって超幸せじゃん、これでもうひもじい思いをしなくていいんだって、それからだね。

水に浸したお米をハーブやスパイスで煮込む。

加)わぁ、ちゃんとお米がバスマティ米!どこで買ってるの。

田)これはもうネットで5kgとかで買ってる。半分袋欲しさに。ザ・パキスタンみたいな袋でかっこよくてさ。

加)富山県に射水市っていうところがあるんだけど、そこはイミズスタンって呼ばれてて、パキスタン料理店がたくさんあって。それはなぜかというとパキスタンの人たちのコミュニティがあるからなんだよね。中古車のヤードもたくさんあってさ、そこのコンテナハウスの食料品店でバスマティ米のパッケージを見て、私もすごくかっこいいなぁと思った。

8号線を走行中、なんとなく目に入った看板に惹かれてコンテナの内部へ。
ジャケ買いしたくなるバスマティ米。なんとも贅沢なパッケージ。

田)これは鶏ガラ出汁をとったときに浮いてきた油の方。鳥くさくしようと思ってさ。

加)素じゃなくちゃんと鶏ガラを煮てるんだ。出汁をとったあとの鶏は。

田)身を取れる分取って、それを鶏出汁と一番出汁を合わせたものに、むしった鶏肉と卵焼きを薄くしたやつと葱で鶏飯にして食べてる。出汁をとった日の次の朝は鶏飯、みたいな。
(※鶏飯=奄美地域を代表する郷土料理。かつて、奄美群島が薩摩藩の支配下に置かれていた時代、鹿児島本土からやってくる役人たちの威圧的な態度を少しでも和らげるためにつくられたのがはじまり)

鶏ガラ出汁から出てきた油を別にして取っておいたものを、適量投入。
火加減とタイマーを交互にチェックする真剣なまなざし。

田・加)いただきます!

田)混ぜすぎずに食うのが◎

加)あっ、確かに。このマチマチが色々な味を楽しめるからいいっていう。
お米がふわふわでスプーンから伝わってくる感触が、なんとなく手で集めて食べてみたくなるなぁ。

田)不思議といくらでも食えるよね。
まだでも、ど真ん中なスパイス使いをしてこの感じで、もっと違う感じに立たせようと思うと、全然違う方向に走れるんだけど、そうなるといよいよいわゆるカレーとは全く別物になる。

加)これ、食べてもらいたい人いるなぁ〜。。。!!
インスタでビリヤニ出しますって告知をたまに見るけれども、どんな感じで買いに行けばいいの。

田)ビリヤニ日の炊き上がりの頃に、タッパ持って来店すればいいよ。予約なしで先着無料。なくなり次第終了。いちばんシンプルだよね。

均一に混ぜすぎず、味の変化を楽しむ。ふわっと軽いお米を持ち上げるとともに香りも広がる。

古物が持っているワクワクする世界に
少しずつ傾倒していく。

加)お店の奥に古物が陳列されているけれど、これらはどんな風にやってきたの。

田)主に、地球屋に来るお客さん経由だね、家を整理するとか。

加)髪をデザインしている時の、何気ない会話からだったんだね。

田)前は古物屋ばかりが集まる売りと買いの競りみたいなマーケットが月に1回盛美園(青森県平川市)であって、そこに通ってた。今は全然行かなくなっちゃったけど。

加)それは見るのが目的とか、もう仕入れる目線で。

田)そこは古物商許可証を持ってないと中に入れないからさ、そこに半分入りたいがために許可を取ったっていうのもあるんだけどね。古物屋ばっかり集まって何やってんの?みたいな。一般の人見れないんでしょって。古物が好きっていうのは大前提としてあったんだけど。

店の奥に陳列されている、古物の品々。

加)振り返ってみると古物を好きだって意識したのは何かきっかけがあったのかな。

田)たぶん、もともとジャンクショップがすごく好きで。古着が好きだとかも。ヨーロッパビンテージを扱うような古着屋さん。

加)ファッションがはじまりだったんだ。

田)そこからの、古着好き好きって言ってると、どんどんズタボロになっていくじゃない。ズタボロこそ全てみたいな。そしてジャンクショップに走るようになって。いわゆる大量生産なお店にはないものがあるかもしれない、何かワクワクするものがあるかもしれないみたいな。
青森県内やどこか遠出した時も、ジャンクショップや古道具屋さん、果ては骨董屋にちょいちょい出入りするようになって傾倒していった。

加)なんか昔から好きなものが自然と仕事になってる。

田)ちなみに20代の頃からずっと連れて歩いてるのは、そのコロンビアのスピーカーね。
ここで美容室の仕事してるとさ、話の中でふと家を片付けておばあちゃんち空にしちゃったよ、とか。捨てる話をよく聞くんだよね。そうするともったいないなぁって。
古物の許可を持っていれば、タイミングのいい時に引き取れるし、次の人にパスできる。全ては持ってこれないけれど上澄みでもでもすくえたらと思って。

最下段にある20代の頃からともに生き続けているコロンビアのスピーカーは、今も現役で店内に音楽を響かせている。

加)家々の文化みたいなものが見える体験っていいよね。石川県金沢市に住んでいた時に「おくりいえプロジェクト」に参加した時があって、金沢町家の改修をする建築士がはじめた活動なんだけど、雑巾1枚持って掃除や片付けを手伝えば、ご褒美に家の中にあるものを持ち帰っていいっていう。私が参加した回は元食堂の町家だったんだけど、少しでも関わる事ができて、物も気持ちもおくりあえていい体験だった。

田)うん。暮らしの背景みたいなのも見えてくる。築60年くらいの一般住宅に行った時に押し入れを開けたら、上は普通に布団だったんだけど、下の奥の奥に手のついてない酒瓶がいっぱいあったりしてさ。じぃちゃんここに酒隠してたのかなとか。かたや違うところを開ければ、戦時中の白黒写真がいっぱい出てきたりとか。しかも日本じゃないのね、南の島の木生えててさ。
この時のはみんなそれぞれ次の人の手に渡ったけれども、1枚だけその時のお皿があるよ。ちょっと欠けてたから修理してから出そうかなと思って金継ぎ中。

お皿の欠けた部分を金継ぎし、修理してからお披露目したりも。

加)いいなって思って持って陳列した物を、いいねってわかって買ってくれる瞬間も嬉しいね。

田)そういう意味では、ここの仕事がありがたいことに好きなものがリンクする人たちが集まる。

加)とりあえず今の潮流としては、地球屋界隈からビリヤニ好きが増えていくんだろうね。
そういうセンスから見出された古物との出会いも楽しみ。

地球屋のInstagram
https://www.instagram.com/chiqya/