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美しい形に一目惚れ。バオリ発祥の地で継承する、編み笠の技。

美しい形に一目惚れ。
バオリ発祥の地で継承する、編み笠の技。

Text・photo

Miyuki Kato

カーブのラインに目を奪われた、青森県南部伝統工芸紹介の1ページ。

こんな形の編み笠見たことない!五戸町の伝統工芸として紹介されていた編み笠に強烈なインパクトを受けました。それはカウボーイハットのような形をした、スタイリッシュな形をしていたからです。うわぁカッコイイ!実物を見たい!私もこの帽子を被ってみたい!と、青森県内にある道の駅や観光物産館など、主要な工芸を取り扱っていそうなお店をまわりましたが、全く出会うことができません。
それから諦めムードで数年がたったある日、青森市桜川にある「つがる工芸店」の月イチ展示会、夏の息吹を感じる頃の回に立ち寄ったところ、目の端にチラついた帽子を二度見!さすが民藝の青森エリアを司る聖地。灯台もと暗しでした。
店主の會田さんとの会話も弾み、テンションが上がった私はもっと見たいと欲をかき、そこから今度は通信手段を駆使して問い合わせ続けたら、あっ!と言う間につくり手の稲村幸男さんに出会うことができたのです。

早速わたしのバオリを興味深げに観察し、手直ししてくれました。

生まれた場所と、発明した人。

五戸バオリは江戸末期、蛯川村の浪人・鳥谷部覚右衛門が旅人の編み笠や農民のかぶりものから考案したといわれ、作り方を農民に教えたところ、強い日差しをやわらげ、雨の時は水分を吸って目が詰まり雨を通さないバオリは、農作業時の日傘や雨笠として欠かせないものになったそうです。バオリの良さはその後さらに伝わり、十和田、八戸、七戸などでも作られるように。地域ごとに進化して特色もあったようです。昔は何十人と編んでいて、組合もあって価格も合わせてたんだよ。特に蛯川バオリは人気があって、飛ぶように売れたんだ。と話してくれたのは稲村幸男さん。幸男さんは20年ほど前に父親の政吉さんに教わり、仕事が落ち着いた時期に作り方を忘れないようにと制作されています。
最後のバオリ職人と言われた川村長八さんは、黒澤明監督が見た夢を元にしている作品「夢」の「水車のある村」で使われた、100個のバオリ注文を受けたこともあるそう。その長八さんが死去されたあと、編みかけで残されたバオリを完成させたのをきっかけに政吉さんはバオリ作りに再び取り組むようになり、その技は息子の幸男さんに受け継がれ、今やバオリを伝承することができるのは幸男さんただ一人です。

黒澤明監督作品「夢」[ 水車のある村 ]より。
『夢』【初回仕様】ブルーレイ 5,170 円(税込)/DVD 1,572円(税込)
発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント 販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント
© 1990 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved.
https://warnerbros.co.jp/home_entertainment/detail.php?title_id=1740

体験教室を機にあらわれた、次代の担い手。

そんな中、制作体験を機にバオリ作りがしたくて大阪から移住し、弟子入りするという気合の入った女性が。この日は丁度工房で修行をされていて、師匠のアドバイスを真剣な表情で受け止めていました。次代の担い手が現れて、幸男さんも嬉しそうです。

幸男さんの所作を見て、作って、感覚を体得していく。

なかなか出会えなかった謎が明らかに。

しかしこれでひと安心ではなく、バオリを作る材料であるイグサが、今ある在庫がなくなれば作れなくなるとのこと。なるほど、バオリになかなか出会えない理由がここにありました。
昔はおそらく田んぼにみんなで植えていたと思う。道路の脇に干していたのは覚えてる。イグサの天井を縛って束ねて自転車の車輪みたいに丸く円を描いて開くような感じだった。1回イグサを収穫した記憶を元に、長八さんの田んぼにあったものを植え替えて育てているが、今年は順調に育っているな〜と途中まで良かったが、田んぼの除草剤の影響を受けて先端が枯れてしまった。根がまだ生きているから来年また育つだろう。とのこと。
そしてもう一つ重要なマテリアルが「竹」。バオリのフォルムの花形とでもいいましょうか、あの独特なカーブを描く要の芯です。それもなぜか取り寄せた竹は割れてしまったりして具合が悪く、蛯川の強くて折れないコシのある竹じゃないとできないのだそうです。
「バオリは自然のものばかりでできているから、いい素材でなければいいバオリができない。」
今回の訪問で浮き彫りになった素材づくりの課題。まずはなるべく多くの人に知ってもらいたいなと思いました。

五戸に暮らす皆さんと、幸男さんの育てているイグサを観察。

当時の知恵が編み出した希少な帽子を、繋いでいくために。

今年の畑仕事でバオリを被ってみたら、日差しが和らぎ、風がスーっと中を抜けて、通る風の質も違う。つばのカーブで視界も良く、本当によく考えられた、当時の知恵がぎゅっと詰まっている帽子だと実感しました。この素敵な帽子で農作業したら楽しいですね。これから先もずっと長く付き合っていきたい。
バオリがこの先も生き続けていくためには、周囲のサポートが何よりの力。まずは素材づくりの課題があることを知ってもらうこと。そして知恵を出し合い、実際にやってみること。自然の素材は1年かけてようやく結果が出るので、複数箇所に様々な条件でどう育つか実験できたら、課題解決への道が開けてくるかもしれません。
関心のある方、情報提供など、お声かけいただける方はメールフォームからご連絡いただけると嬉しいです。
ちなみに、バオリ制作体験が例年だと3月頃に開催されているようです。情報を仕入れたら紹介いたしますので、興味のある方はお楽しみに。

バオリを展示しているところ
五戸町立公民館(ロビー内のショーケースにあり)
https://goo.gl/maps/xDqiNVVx8bNFurNE6
ごのへ郷土館
http://www.town.gonohe.aomori.jp/kurashi/kyoiku/gonohekyoudokan_kaikan.html
バオリを買えるかもしれないところ(毎月1回の展示会会期のみオープン/冬季休業)
http://www.komakino.jp/tugaru/
※詳しくは、各施設へお問い合わせください。