9号線を西へ車を走らせ、宍道湖が見えてくると間もなく、名湯・玉造温泉の看板が見えてきます。
この周辺で江戸時代中期に始まったという布志名焼は、来待石を瓦などに加工する際に出る削りかすを釉薬にした、あざやかな黄釉が特徴。
来待石は宍道湖の南岸に分布する来待層で採れる、1,400万年前の火山堆積物が海底に堆積して形成された凝灰質砂岩。古代〜中世は石室や石棺に、江戸時代〜現代は石灯籠や釉薬に、古代への浪漫も感じる素材です。
布志名焼・湯町窯の開窯は、大正11年11月11日。現在は3代目の福間琇士さん、4代目の庸介さんと受け継がれています。
琇士さんの父・貴士さんの時代には、河井寛次郎、浜田庄司、バーナード・リーチの各師が窯を訪れ、陶技が伝えられました。
そして、湯町窯のリーフレットやシッピングバッグに絵がデザインされていますが、当時棟方志功も訪れています。展示室には当時の新聞をコピーして貼ってあり、日付は昭和28年1月27日。ここで絵付けをなさって展示会をしてましたわ。と、幼い頃の風景を覚えていると琇士さんは言います。
その絵付けをしたお皿の横には、昭和29年の消印の棟方志功直筆の封筒が。この封筒を飾ろうと思って開いたんですわ。そうしたら、この封筒はリサイクルでね、日本放送協会から棟方志功へ宛てた封筒でしたわ。物のない時代だからね。僕が子供の時はキャラメルを食べると紙を大事にとっておいて、おばあさん手作りのいも飴を包むのに使ったもんです。
こうして眺めたりお話を聞いていると、今でも敬愛する人たちの痕跡が日常に漂っていて、幸せな気持ちにさせてくれます。
バーナード・リーチ先生から伝わった器で有名なのがエッグベーカー。
湯町窯といえば、一番に思い浮かぶ器です。
エッグベーカーをお持ちの方はご存知だと思いますが、やさしいあのふんわりとした口あたりと食感は、一度味わうとやみつきになります。
器としても、蓋は蒸すための機能的なパーツですが、蓋もの特有のあけるワクワク感がたまりません。
ちなみに、卵と湯町窯の相性から、スリップのエッグスタンドもあったらいいなと、Piranika別注でつくっていただいています。
昔はエッグスタンドをたくさん作りましたわ。と琇士さんは言います。当時は卵の殻を置くソーサーをつけていた時代もあったそうです。
卵は病気の時、お見舞いに持って行ったりする精をつける大切なものでした。
来待石を原料とした黄釉のほか、藁灰を原料とした青色の海鼠釉に黒や白など。そして色の対比を活かしたスリップの模様。あざやかで、湯町窯らしさを貫く色調です。
お皿、湯呑、コーヒーカップ、ティーポットのほか、グラタン皿や直火OKの器も。凹凸が釉薬の濃淡と光と影を表現するしのぎのデザインもありますし、ほんとうにバリエーション豊かで多彩です。近年はランプシェードもつくってみたそうで、新しいことにも取り組んでいます。
そんな心おどる器たちの一部を、Piranika Online Shop でご紹介しています。
そして是非、島根たびの際は湯町窯へ足を伸ばしてみてくださいね。
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湯町窯
〒699-0202
島根県松江市玉湯町965
JR玉造温泉駅横
TEL.0852-62-0726
営業時間 8:00〜17:00(土・日・祝 9:00〜17:00)