北海道斜里町、青森、奄美大島へ移住し、土地の人や文化と交わりながら。そして、自然の中へ足を運び、通いながら制作を続けている、現代作家の作品展「大地に耳をすます 気配と手ざわり展」をご紹介します。
会場は、東京都美術館。立体的に展示が展開され、行きつ戻りつして見えかたの違いに気がついてみたり。探索する楽しみに溢れていました。
入口のエスカレーターを降りると広がる大空間。
川村喜一さんの空間から始まります。
東京藝術大学大学院美術研究科修了後、2017年に北海道知床半島斜里町へ移り住み、狩猟免許を取得した川村さんの暮らしは、いのちの循環が眼前に広がる景色の中にあります。
天井からロープとカラビナでモビールのように吊るした写真には、いのちの愛しさと儚さ、自然の豊かさと厳しさを密接に感じる、知床の暮らしが浮かんでいました。
ふっと照明が落とされた落ち着いた空間へ。
照明に浮かびあがる木版画は、ふるさかはるかさんの作品です。
ふるさかさんの制作姿勢は、北欧の先住民族サーミの人たちの村で取材・滞在制作をしていた時に、自然に沿って、自然と呼応するように手仕事をしていく姿勢に感銘を受けたことに基づいているそうです。
近年は、北東北の山間地域の手仕事を取材・滞在し、杣人(ソマ)※きこり の手仕事から漆に出会い、漆の版木を木版画にして表現されています。
かきとった傷の痕跡や木目が、再び漆で蘇る姿に影のような藍。空間が雪国の森のように感じました。
自然の素材をどのようにしていただき、制作しているのか。制作プロセスを記録した映像も展示されていて、丁寧に伝えることも大切にしているようです。観たあとに、さぁもうひと巡り。
吹き抜けのひときわ大きな空間に降りると、地表から勢いよく沸き立つのは、ミロコマチコさんの作品。
5年前に東京から奄美大島へ移住されたミロコさんは、葉っぱが揺らめくことで風が見えてくることに例えて、島の自然がいきもののように見えてくると言います。
島の人たちが身近に感じるという精霊や龍。そこから生まれた絵本が「みえないりゅう」。空間中央にある作品、「島」の外側で、その原画をぐるっと巡ることができます。そして「島」の内部は、ミロコさんが見ている奄美のイメージが凝縮されて広がっていました。
倉科光子さんの作品は、緻密な植物画に目を奪われます。
細かい砂粒まで丁寧に描かれていて、タイトルは座標になっているのですが、その植物の居場所は東日本大震災の津波浸水域です。
津波によって地中の環境が変化し、眠っていた種が芽吹いたり、内陸の植物が海辺の植物に混じりあったり。
絵の構図からは、しゃがんで植物と見つめ合う感覚で、倉科さんと近い目線で見ているようです。
モノトーンの雪や氷の世界へ誘うのは、榎本裕一さんの作品です。
緑の季節から一変し、雨は雪へ、沼は氷結してゆく冬の造形美。
大きな湖沼が凍りつくことに驚いたという榎本さんの作品の名は「氷結」。氷結したキャンバスに風雪が生み出す模様から、多彩な表情を捉えています。
体験をもとにした「沼と木立」は感覚的な作品。くっきりとした境界と浮かび上がる木立が印象的でした。
制作のための資料というスライドショーでは、広大で絵画的な風景が広がり、根室の気配を感じることができます。
それぞれの手段で自然と交わって表現されている作品を通して、人の世界の外へ意識を向けることの健やかさに気づいたように思います。
好奇心をくすぐる非日常の世界を覗きに行く気分で、訪れてみてはいかがでしょうか。
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大地に耳をすます 気配と手ざわり
The Whispering Land: Artists in Correspondence with Nature
24.7/20sat.ー10/9wed.
東京都美術館
9:30~17:30、金曜日は9:30~20:00 *入室は閉室の30分前まで
その他の詳細は、公式サイトをご覧ください。
https://www.tobikan.jp/daichinimimi/index.html