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メイキング・オブ・棟方志功記念館

メイキング・オブ・棟方志功記念館

Text・Photo

Miyuki Kato

(敬称略)
現在あたりまえのようにある建物は、当然のことながら、誰かが建てなければなかったもの。
棟方志功生誕120年を記念し、今年3月の富山を皮切りに、7月から青森、10月から東京で「メイキング・オブ・ムナカタ」と題し、巡回展が開催されていますが、生誕地の青森には棟方志功記念館があり、ここでは1975年11月開館以来、さまざまな企画展を開催し続けています。

志功君、いまにキミの記念館つくるからな。

記念館が作られたきっかけは、1970年に棟方志功が文化勲章を受賞した時、その芸業を末永く後世に伝えるため建てられました。
青森放送で受賞について、当時の知事・竹内俊吉と政治家・淡谷悠蔵の対談番組があり、その番組内で棟方志功に直接電話をした時、竹内氏が「志功君、いまにキミの記念館つくるからな。」と言ったそうです。竹内俊吉×淡谷悠蔵 対談集「青森に生きる」(1981年 毎日新聞青森支局発行)に、このシーンの事が語られています。
対談相手の淡谷氏は、棟方志功記念館初代理事長を務めた方。歌手淡谷のり子の叔父でもあります。

棟方志功記念館の開館式でテープカットをする淡谷さん(左から4人目)と竹内さん(同5人目)=昭和50年
(出典:毎日新聞社青森支局 竹内俊吉×淡谷悠蔵 対談集 青森に生きる 毎日新聞青森支局 発行 1981年8月1日 P342)

我が道を行くふたりをつなぐもの。

竹内俊吉と淡谷悠蔵は、1919年(大正8年)に五所川原の短歌会で出会って以来の友人。当時竹内は18才、淡谷は21才。
来歴を見てみると、

(出典:毎日新聞社青森支局 竹内俊吉×淡谷悠蔵 対談集 青森に生きる 毎日新聞青森支局 発行 1981年8月1日 P25、P26)

竹内俊吉さん
明治33年2月、西郡出精村(現・西群木造町)生まれ。向陽高等小卒後、上京して三田英語学校中退。帰省してから岩木川改修工事事務所に勤めながら、短歌、映画研究など文化活動をし、大正14年、東奥日報社に記者として入社。同社取締役を経て昭和15年に県議、同17年に衆院議員に初当選して政界入り。戦後、弘前相互銀行(現・みちのく銀行)取締役、ラジオ青森(現・青森放送)社長などを歴任したあと、同30年から連続3期衆院議員。同38年から4期自民党知事、同54年2月勇退。現在青森放送会長。

淡谷悠蔵さん
明治30年3月、青森市生まれ。浦町高等小卒後、大正7年、東郡新城村(現・同市新城)で農民生活に入った。同8年から「黎明」を編集、発行し続け、昭和5年から2年間、厳しい言論弾圧下で「座標」を発行。同3年、全国農民組合県連委員長に就任するなど、農民運動でも指導的役割を果たした。同8年から連続3期、新城村議を務めて政界にも進出。戦後も同28年から連続6回、社会党から衆院議員に当選。同47年、永年の短歌、文芸評論、小説などが認められて、竹内知事(当時)から県文化賞受賞。小説「野の記録」や随筆「袖振り合うも」など著書多数。

※「現在」は1981年、出版当時を指しています。
こうして来歴を見ても、新聞記者と農民運動、自民党と社会党など、立ち位置が異なり、我が道を進んでいる姿が浮かびます。
それでもつながりが途絶えることなく行き交い続けたのは、文化活動の縁が原点回帰になっていたからではないでしょうか。

毎日新聞青森版に掲載されていた対談を一冊の本にした「青森に生きる」。対談から青森の社会史と民俗史が見えてくる、貴重な記録。

今そこにある館は、先人からの大切な贈り物。

寺院や神社の宝物殿のような高床建物の校倉造りを模した建物に、池泉回遊式の日本庭園は、作品を宝として末長く大切に納める箱とする想いが感じられますし、棟方志功に似合う落ち着いた佇まいは、今にも庭に板木を敷いて掘り始めそうな気もしてきます。

校倉造りが目を引く建物と日本庭園が、入り口までの道のりで心を穏やかにしてくれる。

こうした企画や予算編成はもちろん、土地の取得や設計、作品を集めることなど、当時このプロジェクトに力を注いだ人たちはどれだけいたことでしょう。
総工費は二億三千万円。人の力も、財力もかけて実現したことが見えてきます。
しかし、これだけ力を注いだ記念館が、開館からたった48年で、コロナ感染による来館者減、建物設備の老朽化、バリアフリー非対応などを理由に、2024年3月末での閉館が決まってしまいました。この発表に衝撃を受けた方々が、棟方志功記念館存続署名の会を立ち上げ、署名運動を展開しましたが、今後の行方は未定です。
私たちの世代でも、現代にはない街並みやデザイン、建築の構造を写真や資料で見て、今は存在していないことを残念に思うことがあります。
棟方志功記念館に限らず、先人たちが築いた大切な贈り物を、後世のそのまた後世に、大切に繋げていきたいものですね。

青森市にある、棟方志功の作品を観覧できるところ
棟方志功記念館
青森県立美術館
浅虫温泉椿館
酸ヶ湯温泉

棟方志功記念館の門にある、ゆかりの地マップ。