HOME/ ART/

最涯の地で美術の最先端をめぐる奥能登国際芸術祭2020+

最涯の地で美術の最先端をめぐる
奥能登国際芸術祭2020+

Text・Photo

Miyuki Kato

芸術祭の舞台、石川県能登半島の最先端・珠洲市へ。

緊急事態措置・まん延防止等重点措置全面解除後の10月9日、奥能登国際芸術祭のアートめぐりをするべく、青森在住の我らは車で日本海側を南下し、能登半島へ向かいました。
すずと読む珠洲市は石川県の形を象徴的にする能登半島の最先端にあり、珠洲の地名の由来でもある須須神社創建の伝承から、能登国、海路で盛んだった北前船で栄えた歴史や、内浦・外浦と内陸の山々からなる風土など、濃厚で独特な風俗文化が育まれてきたところです。

廃線になっている珠洲駅のプラットホーム。能登線沿線の各駅も、芸術祭の重要なポイントに。

作品鑑賞の前に、必ず検温スポットへ。

金沢市からのと里山里海海道(通行料無料)白尾ICのカーブへ滑り込むと、一面の日本海に迎えられます。ここから北上すること2時間、芸術祭の最南・宝立エリアに到着しました。
早々といざ作品鑑賞へ!と向かいたいところですが、このご時世に必ず必要な手続きがひとつ。それは市内4か所に設置された検温スポットへ行くこと。
奥能登国際芸術祭では新型コロナウイルス感染拡大防止のため、検温と健康確認の後、その日限り有効なQRコード付きのリストバンドを配布し、受付必要な作品会場にて係の方にピッと読み取ってもらうと入場できるシステムを構築していました。開催に向けての努力が感じられ、すでに感謝の気持ちでいっぱいになります。

前回の奥能登国際芸術祭にはなかったリストバンド。

旧南黒丸駅から出発した、アートめぐりの旅。

はじめの一歩の作品は旧南黒丸駅から。ここから珠洲市の能登線は終着駅の旧蛸島駅へ2005年まで奥能登の南岸を走っており、作品をめぐるルートとしても各駅停車さながらに駅もふっと現れてきます。廃線の記憶を辿りながら珠洲の記憶も辿ることに。

No.41 旧南黒丸駅 サイモン・スターリング(イギリス/デンマーク)「軌間」 記憶の線をもう一度引き出しているかのような作品。 
No.39 旧鵜飼駅 ディラン・カク(香港)「😂」 現在の私たちそのものを象徴する姿が。

めぐる中には2017年の芸術祭から引き継がれた作品も。駅で言うと、旧上戸駅のラックス・メディア・コレクティブ(インド)「うつしみ」、旧飯田駅の川口達夫(日本)「小さい忘れもの美術館」、旧蛸島駅のトビアス・レーベルガー(ドイツ)「なにか他にできる」の3駅。
こういった前回の記憶を伴って作品を鑑賞するのは、印象を積み重ねる楽しみがあります。

No.27 旧珠洲駅 村上慧(日本)「移住生活の交易場」 この方の移住スキル、高そうです。
No.20 旧正院駅 大岩オスカール(ブラジル/アメリカ)「植木鉢」 周囲の桜に見守られながら植木鉢列車が停車中。

10のエリアでアートの力を放つ、46の作品たち。

どこからめぐるかプランを練るのも芸術祭の醍醐味。私たちは宝立エリアから、海岸線の各エリアを数珠つなぎにコマを進めていきました。ちなみにエリア設定のベースになっているのは公民館のコミュニティとのこと。大人も子供も地域ボランティアの方々みんなで各会場を盛り上げていて、地域の強い絆と人間力を感じます。

作品鑑賞パスポートにスタンプを押してくれる小さなスタッフさん。芸術祭の素敵なひとコマ。

一向宗の触頭寺院や、空海伝説の島がある「宝立(ほうりゅう)エリア」。

No.38 佐藤貢(日本)「網の小屋」 倉庫に収まっていた漁網の記憶が蘇り、倉庫を網にかけたよう。
No.40 チェン・シー(中国)「珠洲のドリームキンダーガーデン」 子どもたちの自由な絵が、画用紙から立体になって飛び出した!

樹齢900年の倒さ杉で知られる古刹がある「上戸(うえど)エリア」。

No.37 シモン・ヴェガ(エルサルバドル)「月うさぎ:ルナクルーザー」 遊び心アイディアが炸裂している超ポジティブな作品。
No.35 石川直樹(日本)「奥能登半島/珠洲全景」 土地に人に、相当密着して撮られた写真。

市役所、商店街、商港、そして芸術祭のショップ&インフォのある中心的なゾーンの「飯田(いいだ)エリア」。

No.45 金氏徹平(日本)「tower(SUZU)」 ショッピングプラザシーサイド屋上 つかんで引っ張り出してみたくなる作品。
No.33 浅葉克己(日本)「石の卓球台第3号」 海風の吹く、難易度高めの卓球台。
No.32 力五山(日本)「漂流記」 珠洲を支点にしたやじろべえと島々のモビール。地図を驚きの視点で。
No.31 中谷ミチコ(日本)「すくう、すくう、すくう」 様々な手の繊細な姿。見る角度によって様々な対象をすくっている。
No.30 金沢美術工芸大学アートプロジェクトチーム[スズプロ](日本)「いのりを漕ぐ」 中央のくぼみがすくう手の形の船に。
No.29 今尾拓真(日本)「work with #8 (旧珠洲市立中央図書館空調設備)」 がらんとした空間に響く、空調で奏でるリコーダーの音色。

珠洲駅跡地が道の駅に発展。新しい図書館が開館するなど、編集が進む「直(ただ)エリア」

No.28 磯辺行久(日本)「偏西風」「対馬海流・リマン海流」 珠洲から風船を放ち、遠くは山形から返信ハガキが。壮大な実験だ。
No.26 尾花賢一(日本)「水平線のナミコ」 珠洲に伝わる漁師夫婦の悲劇の民話が悲しすぎて。

海側の遺産と山側の遺跡など、多くの遺跡が残る古代珠洲の中心地、「正院(しょういん)エリア」

No.22 盛圭太(日本/フランス)「海図」 SFに出てくる宇宙船のような海図は、古着をほどいた糸で描かれている。
No.23 ムン・キョンウォン&チョン・ジュンホ(韓国)「再会」 能登の屋根は黒瓦。道具が鳴ってる。ここでまた作ることはないの?
No.24 ひびのこづえ(日本)「スズズカ Come and Go」 ダンスパフォーマンスで活躍する衣装たち。
No.25 中島伽耶子(日本)「あかるい家 Bright house」 暗がりの中で明るいと感じる逆転の感覚。光が際立つ作品。
No.21 クレア・ヒーリー&ショーン・コーデイロ(オーストラリア)「ごめんね素直じゃなくて」
漁師にとって月は密接な関係。漫画の張子でつくられているこの月は、地球の人間ドラマを眺めているかのよう。
No.19 デイヴィッド・スプリグス(イギリス/カナダ)「第一波」 薄暗い室内に浮かび上がる巨大な荒波。

北前船の寄港地でもあった、通りをそぞろ歩きしたくなる「蛸島(たこじま)エリア」。

No.17 田中信行(日本)「連続する生命」 代々繋がれていく、島崎三蔵家の歴史。
No.16 青木野枝(日本)「mesocyclone/蛸島」 水蒸気や泡が記憶とともに連なる脱衣所の鉄。
No.13 フェルナンド・フォグリノ(ウルグアイ)「私たちの乗りもの(アース・スタンピング・マシーン)」
珠洲焼に施されていた模様を砂浜にスタンプ。懐かしい缶ぽっくり式の体験型スタンプもあり、フミフミしてきました。
No.14 カン・タムラ(アメリカ/日本)「珠洲(16mm)」 約40年前に復活を遂げた珠洲焼の、民族ドキュメンタリー。

「珠洲」地名由来の地。日本一の高さを誇るキリコと、愛らしいイルカ伝説もある「三崎(みさき)エリア」

No.12 山本基(日本)「記憶への回廊」 浄化を表す塩で描かれた空間。記憶は記録のように留めておく事が出来ないからこそと思う。
No.11 Noto Aemono Project(日本)「海をのぞむ製材所」 水平線と同じ高さに揃えられたベンチやテーブル。極上の眺め。
No.10 カールステン・ニコライ(ドイツ)「Autonomo」 ボールが対象物にあたったあとこちらに飛んでくることも。チャンスボール☆

白亜の美しい禄剛崎灯台と日の出・日の入りが見られる「日置(ひき)エリア」

No.9 キジマ真紀(日本)「ornaments house」 珠洲びとの記憶の片隅に仕舞われている思い出がオーナメントに。
No.7 トゥ・ウェイチェン(台湾)「クジラ伝説遺跡」 クジラにまつわる話からクジラの骨が出土する考古遺跡を偽造。リアルでフェイク。
No.8 さわひらき(日本/イギリス)「幻想考」 旧公民館の全体にコラージュされた空間を、不思議の国のアリス気分でめぐる。
No.5 蓮沼昌宏(日本)「きのうら、きのうら」 1895年発明の動画装置キノーラで見るアニメーション。再生スピードは手かげん次第。
No.6 原広司(日本)「Identification – 同一視すること」 木ノ浦の海に、世界の物語を図形化。建築家はこんなことを考えているの!?

山から海へ直に流れ込む垂水の滝や、揚浜式塩田のある「大谷(おおたに)エリア」

No.45 金氏徹平(日本)「tower(SUZU)」高屋港 こちらも引っ張り出したくなるけど、逆に中に入ろうとしているのかも。
No.4 スボード・グプタ(インド)「私のこと考えて」 青い地球の、地球単位で考える、身近なこと。
No.3 キムスージャ(韓国)「(息づかい:珠洲)2021」
ありのままを映す鏡に水平線を繋いでみる。夕焼けのオレンジが、こことは別の場所を映し出しているかのよう。
スズ・シアター・ミュージアム「光の方舟」 世界土協会(日本&シンガポール)「Soilstory -つちがたり」
大川友希(日本)待ち合わせの森/OBI(日本)「ドリフターズ」/久野彩子(日本)「静かに佇む」/竹中美幸(日本)「覗いて、眺めて 」/南条嘉毅(日本)「余光の海」/橋本雅也(日本)「母音/海鳴り」/三宅砂織(日本)「The missing shade 59-1」「Seascape Suzu」「Untitled」 8人のアーティストが珠洲の家々から集めた民具から、モノ語りを様々な切り口で表現。今までにない劇場型民俗博物館。

山裾に棚田が連なり、田んぼの神様を接待する農耕儀礼が残る里山の「若山(わかやま)エリア」

No.44 カルロス・アモラレス(メキシコ)「黒い雲の家」
立派な空き家に無数の蝶。メキシコでは、個人の魂が蝶の姿を借りて、お祝いのために地球に戻ってくると信じられている。
No.43 チームKAMIKURO(日本) 中瀬康志「上黒丸 座円 循環 曼荼羅 壱」/土井宏二「更新される森」
宇土ゆかり「ちいさなものがたりがかり」/竹川大介+野研「上黒丸 座円 循環 曼荼羅 弐」/坂巻正美「上黒丸 座円 循環 曼荼羅 参― 行雲流水 上黒丸○」
No.42 四方謙一(日本)「Gravity/この地を見つめる」 ステンレスの鏡面が、重力、風、人の流れで地球まかせに動き周囲を写しとる。

駆け足でめぐった、奥能登アートの旅。

じっくり鑑賞したい気持ちをあちこちに置きながらも、限られた2日と半日で全ての作品を巡ることができました。きっかけがなければ歩くことのない道、開けることのない扉を芸術祭が開き、未知の領域へと誘ってくれました。
さらに2017年に飯田の旧映画館で見た、南条嘉毅さんの作品「シアターシュメール」が、建物とともに目に焼き付いていたので、スズ・シアター・ミュージアムでの劇場「余光の海」を見たときには心に染みるものがあり、旧映画館での名残惜しさを成仏させてくれたように思います。
月日が経つほど空き家や空き施設が増えて寂しくなっているのは、どこの地域でも抱えている課題ですが、そこから見えてくるものをしっかり見つめてアートの力で表現している珠洲は、これからもじわじわと人を呼び寄せ、編集されて、ますます行きたくなる場所に発展していくことでしょう。
ちなみに現在のページには2017年の作品を掲載していませんが、公式サイトには全ての作品が丁寧に紹介されています。芸術祭は終了していますが、サイトの方へぜひ、訪れてみてください。

奥能登国際芸術祭2020+公式サイト
https://oku-noto.jp/ja/area.html
SNSでその後の様子もポストされています。今後の動向をチェックしたい方はフォローをおすすめ。
Twitter
https://twitter.com/okunotojp
Instagram
https://www.instagram.com/okunotojp/

珠洲・外浦の素晴らしい夕陽。1匹のカモメもすぐそばの岩場で夕陽を一緒に見ていたのですが、すっかり沈むと水平線へ飛んで行きました。