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空想や思考から出発して物や事を創るミナ ペルホネン/皆川明 つづく

空想や思考から出発して物や事を創る
ミナ ペルホネン/皆川明 つづく

Text・Photo

Miyuki Kato

青森県立美術館の白壁に
ペルホネン=ちょうちょがとまりました。

東京、兵庫、福岡につづき、青森では「ミナ ペルホネン/皆川明 つづく」展が、会期真っ最中。
珍しい地名のラインナップと思われそうですが、青森県立美術館はスタッフユニフォームがミナ ペルホネンという、特別な繋がりのある会場なのです。

ユニフォームのメンテナンスは美術館がしっかり管理しているそう。

ミナは「わたし」ペルホネンは「ちょうちょ」というフィンランドの言葉で、ミナ ペルホネンは、皆川明さんが立ち上げたファッションブランドです。
オリジナルのテキスタイルをつくるところから、服やバッグ、小物やインテリアなどの生活のあらゆるデザインを展開している、ファッションのみならず、暮らしを包み込むようなプロダクトも展開し、発展し続けています。

青森県立美術館の白い壁に、あのちょうちょがとまっている。

いつものようにエレベーターで地下に降りると、スタッフの方にアレコホールを通ってから展示室へと促されました。青森県立美術館の企画展の中では、新鮮なアプローチです。
そして、展示の章は、「実」「森」「種」、、と、自然界に例えた名称になって続いていきます。

形になっているものの背景には、
いくつもの空想と言の葉が織り重なっている。

マリメッコでいうウニッコのように、ミナ ペルホネンといえば、「tambourine(タンバリン)」。小さなドットが連なって円を描いているパターンです。「実」の章では、成り立ちから観ることができます。
2000年に生まれたタンバリンの原画は、一見すると整然としているけれど、線も形もよくみると一つ一つ違っていて、不揃い同士でバランスの良い集合体をつくっています。この手書きの風合いを、工場生産で刺繍するには相当の技術が注がれ、ここに至るまでには試行錯誤と打ち合わせの積み重ねがあったのだと伝わってきます。整然としたものを得意とする機械にとっては、革命的な事です。

2000年からつづく、ミナ ペルホネンの思想も詰まっている、「tambourine(タンバリン)」

子どもたちもウキウキする
洋服の森に住む動物たち

ミナ ペルホネンの服には、お花や動物モチーフがたくさんあり、立体絵本を見ているかのよう。もともとミナの服が好きな大人だけではなく、子どもたちが目をキラキラ輝かせて、「あっ鳥さんがいる!」「たんぽぽだ!」「色がたくさんあるね!」と、微笑ましい場面もありました。

約27年分の服が一同に会する、お洋服の同窓会のよう。

りんご箱公開ペインティングにトークショーと
盛りだくさんのとても貴重な週末

8月21日日曜日は、「ミナ ペルホネンのはじまりとこれから」と題し、ミナ ペルホネンを支える3人のクリエイターによるクロストークが行われました。運よくトークショーを観ることができましたので、皆川明さん、田中景子さん、長江青さんのトークから、それぞれの一部分をご紹介します。

青さん)
今でも思い出すのは、「あおいさんは好きっていうのが強いから、それは才能だと思うから頑張りなさい。」と、皆川さんに言われたこと。好きが強いと何とか工夫してうまくできることが多いけど、好きが弱いと、うまくいく前にやめてしまう。今でも仕事場や取引先との間でも、好きっていうことを共有することで、繋がったって思えたり、もう一歩頑張れるぞって、その気持ち自体がご褒美みたいに感じて次へのエネルギーになることが多いので、好きっていうことがどんどん繋がって続いていくっていうことを感じています。

青さんは、武蔵野美術大学空間演出デザインのファッション科在学中、1995年に皆川さんが自宅で魚市場で働きながらミナというブランドをはじめた少し後からのメンバーです。

景子さん)
テキスタイルデザインの好きな理由としては、終わりがなく繰り返されて半永久的に長くも大きくもなること。阪神・淡路大震災で、ある日突然終わることがあるということを経験したときに、終わりがないテキスタイルデザインが、自分の安心にもつながった。
ミナペルホネンの服を着ていただく方に、たくさん感情を動かして欲しいなと思ってものづくりをしています。着た時の高揚感や、生きていく上で色々なハプニングがあった時、そのことも思い出せるような質感を感じてもらえたら嬉しいなと思っています。

景子さんは、京都の美術大学テキスタイルデザインコース学科を専攻し、在学中にニューヨークでインテリアデザインを学び、帰国後に京都で行われたテキスタイルの小さな展覧会でミナを知り、2002年にテキスタイルデザイナーとして入社したメンバーです。

皆川さん)
僕らは生地からつくるので、工場の人の理解によって生まれるものがものすごく多い。問屋さんを通さずに直接やっているのは、大きな特徴だと思います。言葉でお互いの想像を一致させていくやりとりがすごく重要で、ほとんど言葉で品質を作っていくようなところが多いんです。それが最終的なクオリティを決めるんですよね。
工場さんが試作を上げていただいた時に、途中でうまく行かなかった状態よりも、今シーズンはクリアして、それが持っている先の可能性がどこまで言葉でお互いが想像できるかというのは、テキスタイルの一番おもしろいところです。もともとは縦糸と横糸の組み合わせだけなんですが、その中に持っている可能性は何億あるのかわからない。
イギリスやニュージーランドの羊から毛をもらってきて、それを糸の太さにして、それを織ってみたいな。地球のどこかから集まってきた材料たちがひとつの布になっていくプロセスに、無限の可能性があって、結局いろんなことはそうなんだろうなと。そこが、ファッションとかテキスタイルのおもしろさだと思います。

東京都現代美術館における皆川さんの即興ペイント。
「即興で生まれる絵は偶然と必然の境界線にあると感じている(皆川さん)」

音楽を穏やかに漂わせながら
即興でりんご箱にペイントしていく

前日の8月20日土曜日は、皆川さんがりんご箱に即興で絵を描く「りんご箱公開ペインティング」。館内から八角堂に向かうための通路から外に出て会場へ行くと、観覧者たちの目の前で、思案したり絵筆をりんご箱にのせていく皆川さんがいました。机の上にあるBluetoothスピーカーからはジャズが流れ、普段もこんなふうに音楽を聴きながら仕事をしているのでしょうね。
別の会場では、オリジナルの柄をつくる景子さんのワークショップ、「自分でつくる自分だけの柄」も行われていました。

モチーフ?構図?考えをめぐらせている皆川さんの姿。奥でサポートしているのは青さん。
りんご箱に動物たちが描かれ、個性を宿したものになっていく。

皆川さんのインスタグラムより)
りんご箱に絵を描いた。古いりんご箱は使い道がなくなってしまうと聞いたけど新品にはない味わいがあったからそれを集めてもらって絵を描いてみた。
それを観てくださった方に買っていただきその代金を豪雨被害のあったりんご農家さんへ寄付させていただこうと思う。とっても微々たることだけど古くて行き場のなかったりんご箱の新しい可能性を少し感じることができた。
周囲をぐるっと一つひとつ違う絵を描いたので四時間で14個しか描けなかったのが残念でした。次の可能性も考えようと思う。

ひと針ごとのディティールにぬくもりを感じる。ちょっとしたことが心に響く。

「ミナ ペルホネン/皆川明 つづく」展の会期は2022年10月2日まで。
貴重な青森会場へ、ぜひご来館ください。


青森県立美術館 ウェブサイト
https://www.aomori-museum.jp/

特設サイト
https://mina-tsuzuku.jp/

展示構成:田根剛(Atelier Tsuyoshi Tane Architects)
展示構成補助:阿部真理子(aabbé)
グラフィック・デザイン:葛西薫(sun-ad)