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螺旋状に更新されていく体験。池田亮司展 弘前れんが倉庫美術館

螺旋状に更新されていく体験。
池田亮司展 弘前れんが倉庫美術館

Text・Photo

Miyuki Kato

はじまりは point of no return

ブラックホールのような球体、音とともに重力に引き込まれていく。

point of no returnは、もうもとには戻れない。ということですが、そういえば確かに、私たちは進むことはできても、戻ることは決してできないんだと気付かされます。
一周してスタート地点に帰ってきても、それは厳密に言うと2度目であって、次の体験となるわけですね。
この展覧会は作品解説はなく、柔軟な発想で自由に作品を感じ取ってほしいという想いから、作品に関する情報を意図的に少なくしているそう。
素粒子やDNAなどの、科学領域に関するデータを主題とした音と光の作品は、普段は目に見えないものが立ち上がって表現されています。

鑑賞者も作品の一部のよう。

作品に没頭できる距離に入れたなと感じたのは、2周目でした。
特に、大きな部屋の映像作品では、前の方へと歩み寄り、圧倒的なサイズになったところで腰を下ろしてみると、明らかに離れて見ていた時とは違う感覚。
床に映り込んでいる映像もぼんやり写しとられていて、もう一つの空間となっていました。
これまでの展示会場では、音質を大切にするためにカーペットを敷いていたそうですが、弘前れんが倉庫美術館の空間を生かした展示にしたいという池田さんの意図で、床への写り込みも楽しめるのは、珍しいことのようです。
全体の空間が緩やかに繋がっている美術館の展示室の特徴も生きていて、一つ一つの作品に付随する音楽が折り重なって聞こえることも、この場所ならではのこと。
会期はいよいよ残りわずか、2022年8月28日(日)までです。
詳しくは、弘前れんが倉庫美術館公式サイトへ。
https://www.hirosaki-moca.jp/exhibitions/ryoji-ikeda/